2016年7月5日火曜日

「ファッションコミュニケーション」新刊発売

今までのブログが、「ファッションコミュニケーション」という本になりました。
 
ファッションコミュニケーション
髙田敏代[]

https://www.amazon.co.jp/ファッションコミュニケーション-魅せる服-髙田-敏代/dp/4862492673

ファッションディレクターが語る、人生の様々なシーンで成功するために知っておきたい、戦術戦略を持った服の着方。幸福を引き寄せる着こなしのスキル。なりたい自分になれる装いのポイントを多彩な視点から解説。

主要目次
1章 ファッションってなに
 服を着るということ/ファッションで夢は叶う!/
2章 滑らかなコミュニケーションのために
 わずか数秒で決まる人間関係/ファッションで自分をプレゼンする/
3章 成功に導くファッション
 ビジネススーツは”/大切なプレゼンは勝負服で/
4章 五感とプラスワンを駆使する
 第六感でコミュニケーション/五感を駆使したコミュニケーション/
5章 美人をあきらめていませんか
 美人はほんとうに得か/美人になる裏ワザは色のトリック/
6章 着る勉強をしてきましたか
 「三つ子の魂」が成長のカギ/ドレスコードで大人の仲間入り/ファッションの3SS/
7章 色で変わるコミュニケーション
 色と脳は仲がいい/あなたのパーソナルカラーは?/マインドカラーとチャクラ/
8章 コンプレックスとファッションコーディネーション 「人は見た目が9割」と言いますが
 あなたの劣等感は幻かもしれません/人の目をごまかすことは、とっても簡単/
9章 ミニマルに生きると、すべてが身軽になる
 「持たない主義」を選択した人々/ミニマルライフで価値観を再確認
  /ファッションの世界のミニマリズム/
10章 ファッションコミュニケーションでハッピーライフ!
 おしゃれを意識する習慣を身につけましょう/自分探しとファストファッション/
 
参考文献/ファッション関連年表


たかだ・としよ … 1958年京都生まれ。祖父は清水焼三代目眞清水藏六。短大卒業後繊維商社に就職。OLをしながら、レイデザイン研究所の夜学でファッションマーケティングなどを学ぶ。同所でファッションコンサルタント専門職の勤務を経て、1986年有限会社スタイリングオフィスコアを設立して独立。独自のマーケティング手法で、企業のファッション商品企画開発に携わる。また、百貨店を始め企業の人材育成に取り組み、現在は大学の講師も務める。(財)日本色彩研究所指導者認定、東京商工会議所カラーコーディネーター1級、生涯学習開発財団認定コーチ資格など、様々な資格を持つ。

2016年4月13日水曜日

ファッションからのメッセージ

●ファッションからのメッセージ

 躍動的なファッションができるときは精神面も健全であると考えられます。以下は私の体験談。仕事でストレスが重なっていたとき私は無意識のうちに3日間、同じ服で仕事に行っていました。入浴をしていなかった訳ではなく、朝、服のコーディネートを考える気力がわかなかったのです。化粧をする気もせず、髪の毛は無造作にひとまとめにしていました。そんな日が3日続いたとき、ふと鏡の中の自分を見て、その生気のなさにびっくり。初めて自分の内面の危うさを自覚することができました。じぶんが変だと意識できた時点で立ち直ることができましたが。
 私の体験も踏まえた上で述べるのですが、ファッションはストレスのバロメーターに成りえます。服のコーディネートやヘアメイクが均一したパターンから抜け出せなくなっているときはストレスのサインだと疑ってみてください。
 変化の無いファッションは内面の危機管理にとって重要なだけでなく、コミュニケーションをする相手にとっても、ときとして有り難くないメッセージを発信してしまうことがあります。たとえば、恋人や夫などの身近なパートナーに対して同じジャージウエア姿しか見せないとか、特別な記念日にも地味なファッションしかしない場合、相手に「あなたに会うことは私の重要事項ではありません」と伝えてしまう恐れがあります。「心を許している相手だから、大丈夫」がいつも通用するとは限りません。ファッションに少し気を遣ってみることで「あなたに会えてうれしいから、私なりにおしゃれしました」と、非言語のメッセージを発信することもできるのです。メッセージを受け取った相手もイヤな気はしないはずです。「親しき仲にも礼儀あり」ならぬ「親しき仲にもおしゃれあり」です。ふだんのファッションを見直すだけでまわりの世界がいままでよりもっと心地いい世界に変貌するとしたら? ファッションを最大限に有効活用して有意義な時間を作ることができるのが、ファッション・コミュニケーションなのです。
 ファッション・コミュニケーションは人対人ばかりに有効ではありません。プライベートライフを快適にするツールとしても有効です。学校や職場から帰宅して、再び外出する予定がなければ着替えをするはず。おそらく、リラックスできる部屋着でしょう。では、夜、就寝する際にはどうでしょう。部屋着とパジャマは同じという人は、意外に多いのです。
 オムロン ヘルスケアとワコールが2013年3月18日の「春の睡眠の日」に向けて行った「パジャマと眠りに関する共同実験」があります。対象者は国内在住の20〜40代で、ふだんはパジャマに着替えずに就寝する男女30名(男性10名・女性20名)。彼らがパジャマに着替えることで眠りにどのような変化があるかを調査しました。結果を見ると……

〈寝つきにかかった時間〉
・パジャマを着なかったとき  平均47分
・パジャマを着たとき  平均38分

〈夜中の目覚め回数〉
・パジャマを着なかったとき  平均3.54回
・パジャマを着たとき  平均3.01回

 この実験から見ると、パジャマを着ることで眠りにいい影響を与えられることがわかります。眠りと深い関係があるのが自律神経で、自律神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経は昼の行動を助けてくれるもの。夜、リラックスした状態や眠りにつくときの働くのが副交感神経。交感神経から副交感神経に切り替わるときには少し時間がかかるのですが、パジャマに着替えるなど眠る前のお約束となる行動を起こすことでスムーズな切り替えが促されるそうです。この眠りにつく前の習慣を「スリープセレモニー(入眠儀式)」とも言います。心地よい眠りの儀式としてパジャマに着替える効果は、前にも解説した「アンカリング」でもあり、先ほどの習慣化ともつながってきます。
 さて、多くの人は「人間のココロとは、とかく複雑だ」と考えがちですが、じぶんが望む方向にココロを動かすことが意外にたやすくもあるということが、この本を読むことでお分かりいただけたでしょうか。そして、ココロのスイッチを切り換えサポートをしてくれるのが服のパワーであり、人の心理面に働きかけるファッション・コミュニケーションなのです。ココロ、命を輝かせる服があることがわかれば、人生はもっと楽しくなるはずです。「じぶん探し」に疲れて人生の迷子になりそうなときは、ぜひ服のパワーを借りてみてください。「こんなことで!?」と拍子抜けするぐらい、目の前の壁がなくなるような体験ができるはずです。

2016年4月6日水曜日

じぶんを育てる服と出会う

●じぶんを育てる服と出会う

 ある心理学の実験についてご紹介しましょう。対象は3才から6才の子ども約40人。彼らに3次元コピー機を「どんなモノでもコピーできるんだよ」と説明し、実際に見本のオモチャのコピーをして見せたそうです。それを見た子どもたちの反応が面白い。コピーのおもちゃに大興奮した彼らは、オリジナルのおもちゃよりコピーに対して関心を示す傾向にあったとか。ところが、次に同じ子どもたちに「きみたちの大事なおもちゃを同じようにコピーしてあげよう」といったとき、ほとんどの子どもがそれを拒否するという結果がでたそうです。オリジナルだからこそ、価値がある。愛着があるし、じぶんの好みにしっくりくる。手になじむ……。この実験から、人はオリジナルのものを手にしたときに得られる高揚感を好むということがわかります。
 ファッションについても同じことがいえるのではないでしょうか。好きなブランドのアイテムを手にしたときの幸福感は格別です。もし、それがコピー商品であったら? デザイン的な相違に差がなかったとしてもオリジナルが人に与える心理的作用は望めない。「コピー商品をさも本物のように偽って他人に見せる」というような使いかたをすれば、卑屈な体験にもなるはずです。
 一流ブランド品にはデザイナーや職人のこだわりやプライドという背景があります。生地や皮の色、厚さ、縫製の仕方など隅ずみまで計算され、唯一無二のものだという作り手の自信が存在意義を高めているのです。そこで提案したいのが「じぶんに自信がないときほど、一流ブランドの力を借りてもいい」。つまり「虎の威を借る」のです。それを実行しているのが液晶画面の向こう側にいる芸能人や有名人。彼らは競争の激しい世界で少しでもじぶんの存在価値を高めてライバルに勝つために、より上質のブランドを身につけて力を借りているのです。この方法は、かなり有効。ブランドによる仮のパワーを得てじぶんを大きく見せる。最初は仮のパワーでも、やがてはじぶんの栄養になり、じぶんを変化させるきっかけ作りにもなるはず。だから、大切な会合などがある際は少し背伸びをしてハイブランドのスーツなどを用意してみることをお勧めします。その服を着たじぶんを鏡で見たときの気持ちをじっくりと見つめてみてください。背筋がシャキッと伸びるのか、少し畏怖する気持ちがあるのか、やっとこの服が着られるようになったことへの感慨か……。いずれにしても、いままで経験したことのない気持ちなのではないでしょうか。それは、人生の新しい1ページが開かれた証でもあるのです。私自身、アルマーニやジル・サンダーなどのハイブランドのパワーに何度も助けてもらい、育ててもらいました。じぶんを育ててくれる服選びのポイントは「いまのじぶんに似合う服」ではなく「目標とするじぶんに似合う服」にすることです。最後に、ナポレオンの有名な名言を紹介しておきます。

“人はまとった制服のしもべになる”

2016年3月30日水曜日

じぶん探しとファストファッション

●じぶん探しとファストファッション

 人は失敗すると自己評価が下がり、気分も沈みます。それゆえ失敗を回避しようとするのは心の自然が働きと言えるでしょう。ただし、青年期の人たちに関して言えば失敗は大人になるために通過儀礼であり、推奨すべき体験なのです。 
 青年期、「じぶんはどうやって生きていくのか」「じぶんがほんとうにやりたいことは何か」などを自身に問いかけ、悩むことで自己のアイデンティティーを確立していく心の動きがあります。そのなかで得られた「これこそじぶんが求める人生の目的だ」という実感を「自己同一性=セルフ・アイデンティティー」と言います。つまり、思春期から人は「何のために生まれてきた?」「将来、どんな仕事をしたらいい?」「どうして、友だちのAさんと私はこんなに違うのか?」といったことを考えはじめ、悩むのですが、これは大人になるための通過儀礼のひとつ。
 何のために生きるか」は、心理学や哲学における不変のテーマです。なぜか。じぶんの人生の目的を明確に持っている人はごく僅か。なぜ人という生き物はこれほどじぶん自身のことが分かっていないのでしょうか。
 視点を変えて、ここで「モラトリアム」という心理学用語を紹介しましょう。語源はラテン語の「mora(遅延)」「morari(遅延する)」で、もともとは経済学用語の「支払猶予期間」のことだったとか。心理学者エリク・H・エリクソンが「青年が大人になるまでに必要とする猶予期間」という意味で心理学に導入しました。
 エリクソン自身が生涯、じぶんのアイデンティティーの確立に悩んだことから「モラトリアム」や「自己同一性」の概念を生みだしたと言われています。エリクソンについて少し解説をしておくと、彼は母親が初婚のときに不倫をしてできた子どもだったと言われています。母親が生きている間にエリクソンの出生の真実を告げることはなかったため、母の再婚相手(エリクソンにとっての義理の父親)を本当の父親だと思い続けたエリクソン。父とじぶんがあまりにも似ていないことからじぶんのルーツについて生涯、悩むこととなったそうです。
 エリクソンのような複雑な生いたちは稀なケースだとしても、現代人はつねにじぶん探しをする生き物という印象があります。慶応大学の小此木教授も「本来は青年期だけの、つまりモラトリアム特有の悩みに対して大人になっても答えを探し続けていることが多くなった」と指摘しています。教授の執筆による「モラトリアム人間」なる本の出版は1970年代のことで当時、かなり話題になりました。
 なぜ、大人になりきれない人間が多いのか。いろいろと頭のなかでシミュレーションはするものの実際に行動に移すことが少ないため、現実での経験値が不足しているためではないでしょうか。
 では、なぜ、行動することができないのか。その理由のひとつに「リスクを負いたくない」という恐れが考えられます。リスクを冒して失敗するのを回避したいがため、個の世界にひきこもってしまう人が少なくないのではないでしょうか。
 現代の20~30代は就職氷河期にやっとの思いで就職した世代でもあります。たとえば本心では転職を希望する事態になったとしても、再度大変な思いをして仕事を探さないといけないという恐怖から現状維持に甘んじてしまいがちなのが特徴とも言われます。彼らの多くは競争を好まず、身の丈にあった「ほどほどの幸福」で満足しがち。そんな彼らの選択肢の少なさは、実体験の少なさに起因しているように思えます。これまでの人生のなかで何かに挑戦した経験が少なければ、おのずと成功体験も限られる。成功した達成感や充実感をあまり得た経験がなければ、たった一度の失敗でも心理的ダメージは大きいでしょう。「また、あんな思いをするのはイヤだ……」という思いから、未来への期待よりも現状の平和を維持する道を選んでしまうのかもしれません。
 失敗することはそれほど悪いことではない、ということを若者達に分かりやすく伝えることが今の世の中には必要です。失敗体験を経て人は少しずつ強くなれる。折れにくい心が育めるのです。苦しみを経験するたびにじぶんがどんな人間が少しずつわかっていく。モラトリアムに勇気を持って向き合うことで自己同一性を確立し、大人としての内面の強さが育まれるのです。
 近年、巷で市民権を得ているファストファッション。ファストファッション(fast fashion)とは、トレンドを採り入れた低価格の衣料を短いサイクルで大量生産・販売するファッションブランドやその業態を指した言葉(出典元:ウィキペディア)。早くて安くておいしいファストフードにちなんだ造語で、2000年代半ばころから認知されるようになったとされます。このファストファッションの台頭がファッションと人との関わり方にモラトリアム現象を発生させているのではないか、と考察できないでしょうか。
 かつて日本のファッション業界において製造・流通・販売はそれぞれ独立したものでした。その一連の流れを1社で行うことにより、スピーディーで低コストゆえの低価格商品が販売できるようになったのがファストファッション。バブル崩壊後、デフレが進んだ日本において、まさに時代の申し子のようなファッションでした。「洋服代をできるだけ抑えたい。でも、トレンドも意識したい」という時代のニーズを捉え、近年の急成長になったわけです。
 ファストファッションは、手ごろな価格・気軽なファッションという魅力がある反面、とかく着捨てファッションになりがち。その要因は低価格ゆえの耐久性に欠けた素材・トレンドを反映した一過性のデザインの服、などが挙げられます。
 では、ファストファッションが時代を席捲する前の流行は、どうであったか? いわゆるDCブランドのブームも含めたモード系のファッション。モード(mode)とは、もともとフランス語で流行やファッションを意味する。モード系ファッションとは、コレクションで発表される最新のファッションを指し、特徴はデザイナーやブランドのオリジナリティやクリエイティビティを反映している点。かつてのDCブランドブームの時代において、ファッションとは「いかにヒトと違う装いをするか」がテーマでした。なぜなら、モード系のブランドは、流行を追うのではなく、作りだすことが命題。素材や縫製などにこだわった上質のアイテムはどれも高価格であり、一部の富裕層以外、ファッションに好感度な人間は選択を重ねて購入する必要がありました。欲しい服をある程度、大量購入できるファストファッションとの大きな相違点でしょう。
 ファストファッションとモード系ファッションのどちらを選択するかは、個人のファッションに対する捉え方や費用対効果によって様々なはず。ですが、ファストファッションで満足しているとファッションに対する感性が磨かれることは、まずありません。
 たとえば、ファストフードばかり食べている人間について考えてみてください。お世辞にも健康的とは言えない。もし成長期の子どもであれば栄養も不足しがちです。ファッションでも同じことが言えます。ファストファッションばかりで満足していた場合、おしゃれに関する素地が育まれにくくなり、上質に対する感性も磨かれる機会も無くなります。
 じぶんに似合うファッションを探している間はいわば、ファッション・モラトリアム時代。その期間、ファストファッションはもちろん、多様なファッションを試すという冒険心も必要なのです。ファッションはいろいろなシーンや対面する相手によって変化する必要があります。さまざまな経験を踏まえてこそ「この場面には、このファッションである」というノウハウを得ることが可能となり、その後の選択も容易になるはずです。

 「じぶんはじぶん以外の何者でもない」という意識が何よりも重要です。すべての人は世界にただ一人のユニークな存在であってしかるべき。だれもがすぐ手にできるお手軽ファッションはユニークな存在を「十把一絡げ」の存在として語ってしまうかもしれないということを認識すれば、ファッションと人とのつきあい方は変わっていくはずではないでしょうか。

2016年3月23日水曜日

失敗体験によっておしゃれセンサーが磨かれる

●失敗体験によっておしゃれセンサーが磨かれる

 第2章で「失敗体験もじぶんの引き出しにしまっておく」という項を書きましたが、失敗体験をじぶんの中でうまく咀嚼することは成長につながります。
 かくいう私もたくさんの失敗体験を経てきたひとり。そのうちのエピソードのひとつが、ジャケットの着こなし。少し前までビジネスシーンにおける私の制服はジャケットでした。プレゼンなどの重要な場面はもちろん、気心の知れたクライアントとのちょっとした打ち合わせなどでもジャケットスタイルが定番。それは「相手を尊重し、きちんとした服装でお会いしたいから」という気持ちからの選択でした。それが、ここ数年のうちにちょっとした打ち合わせの場合、ハイブランドのアイテムではあるもののニットスタイルなど、カジュアルテイストの服装で行く機会が増えてきました。ただし、カジュアルではあってもトレンドを押さえていたり、クライアント関連のショップで購入したアイテムであることなど、いくつかのポイントが。すると打ち合わせの際、「今年のトレンドをいち早く押さえていますね」「うちのショップで購入されたアイテムなんですか!」など、会話の幅が広がるようになったのです。ジャケットスタイルのときであれば、必要なビジネス会話をして終わっていたコミュニケーションの幅が広がったわけです。
 ジャケットスタイルに関しては、こんな失敗も。アラサーのときのことです。イタリアから来日したベネトンのデザイナー(社長の妹)のアテンダントをさせていただいたことがありました。私は失礼のないようアルマーニのスーツを着たのですが、それを見た彼女が「あなたの年齢でなんて地味なスタイルをしているの!? イタリアでは50代の公務員の女性がするようなスタイルよ!」と驚かれてしまいました。ベネトンといえば、カラフルな色使いのニットで一世を風靡したブランド。私ももっと色使いなどに気を遣うべきだったな、と後で反省しました。失敗体験が「ジャケットスタイルは万能ではない」と気づかせてくれたのです。ときとしてジャケットは一方通行のコミュニケーションしか生まないことを学びました。そのことに気づいてからは、相手の目線に合わせた服選びができるようになったと思います。たとえば、大学での講座に臨むときは生徒たちの世代のトレンドを考慮した服を選ぶ。すると「先生、今日の服カワイイ!」と生徒との距離が縮まり、「さすが、トレンドを取り入れるのが早い!」と生徒たちに一目置かれるようにもなります。
 失敗談で言えば、ほかにもこんなケースが。気に入って購入したパンツを着て会議に臨んだときのことです。長時間の会議が終わって立ち上がったとき、パンツの後ろがシワシワになってとても恥ずかしい思いをしました。シワになりやすい素材だということに気づいていなかったのです。素材面で言えば、まだあります。購入して初めてのシーズンが終わりクリーニングから帰ってきた服は、もう着る気にならないくらい傷んでいたのです。クリーニングに向かない服だったのですね。機能面で服に裏切られた経験は、多々あります。いえ、服に罪はありません。服選びの際には素材にも気をつければいいのですから。いい勉強になりました。
 失敗体験から服選びのとき気をつけるようになった点はもうひとつ、後ろ姿です。昔、他人から「今日の服はお尻がパツパツですね」と指摘され、恥ずかしい思いをしたことが。以来、クローゼットの近くと玄関先に大きな姿見を置いて、二度三度と全身だけでなく後ろ姿もチェックしています。
 過去の失敗体験をいくつか披露しましたが、これらは私の大切な財産でもあります。失敗を重ねることは何よりいい学習効果を生みます。その積み重ねが、ファッションのセンサーを磨いてくれるのです。ファッション雑誌をたくさんチェックしたり、カラー・コーディネーションを学ぶという勉強もいいですが失敗を恐れずに冒険して、ときには失敗することも大切な勉強ということを意識してみてください。

2016年3月16日水曜日

第10章  ファッション・コミュニケーションでハッピーライフ!

●おしゃれをしない習慣から、する習慣へ

 ここで、あなたが今朝からいまこの時間までに何をしたか、思い出してみてください。起きて洗面を済ませ、朝ごはんを用意して食べ、着替えや化粧を済ませ、家を出て会社が学校に行く‥‥といったところでしょうか。では、これら一連の行動をする際に、あなたは何かを考えていたでしょうか? たとえば、目が覚めたとき「起きてすぐに歯を磨こうか? 顔を洗おうか? トイレに行こうか? 先に着替えようか? 食事の支度にしようか?」などなど。考えてから行動に移したでしょうか? おそらく答えは「ノー」でしょう。なぜか? それは毎日繰り返している習慣を今日もまた繰り返したはずだからです(今日がたまたま休日だった場合は、行動パターンが平日とは違うかもしれませんが)。
 私たちの多くは習慣化された行動によって日々を過ごしています。一度習慣化してしまえば、無意識のうちにそれをこなすことができます。車の運転にしてもしかり。毎日の食事のための料理にしてもしかり。パソコンの操作や仕事に使う機器類の操作にしても同様です。これらを毎日毎日、人に教えてもらったり、取扱説明書と首っ引きで操作したりしていては、非常に効率が悪い。つまり人が生きるうえで習慣化は、かなり重要なキーワードになっているわけです。
 ただし、習慣化にはメリットばかりではありません。脳は一度習慣化したことに関しては、それを変えることを嫌うという傾向にあるとされています。それはいつもと違う行動パターンを選択することは予測不能な結果を引き起こす可能性があるからで、生命維持の観点から危険を回避しようとするからです。私たちが新しいチャレンジをしようとしても重い腰が上がらなかったり、やり始めてもなかなか長続きしない理由のひとつです。
 ここで、話をファッションに戻します。「おしゃれに関心がない人」と他人に感じさせる人の特徴のひとつは「いつも同じファッションをしている」ではないでしょうか。同じスーツに同じネクタイ(違うスーツであっても同じスーツに見えるような着こなし)であったり、10年以上前から流行に関係なく同じようなスタイルをしている、であったり。こういうタイプの方は「おしゃれの枠組が狭い」のだと思います。それは、ファッションに関する知識の狭さでもあり、じぶんに対する認識の不足であり、他者とのコミュニケーション不足であったりと、すべてが狭い世界で生きていると言っても過言ではありません。おしゃれの枠組が狭い人は、その狭い枠組の範囲内でしか人とコミュニケーションできていないはずなので、「じぶんは人付き合いが苦手だ」「なかなか他人に理解されない」など孤独感を感じることが多いのではないでしょうか。こういう人は「おしゃれをしない」「服装に気を遣わない」「流行を知ろうとしない」「他人のアドバイスを聞かない」ことが習慣化されている可能性があります。
 脳科学研究では同じ行動を2〜4週間ぐらい繰り返し続けることで、その行動に移すための神経細胞間をつなぐシナプス(接合部)がつながるため、習慣化が図れると言われています。つまり、今までおしゃれをせずに過ごしてきた人でも約1カ月間、おしゃれを意識して服選びをすることを続ければそれは習慣となり、その後は意識せずとも服装に気を遣うようになるわけです。
 女性の場合、おしゃれな友人に手伝ってもらったり、お気に入りのショップを見つけてショップスタッフの人にアドバイスをしてもらってもいいでしょう。憧れの有名人を徹底的にマネするという方法(ペーシング)もあります。ただ、この場合、じぶんのイメージや体型、年齢が近い人を対象にすることをお勧めします。その方が結果を得られやすいからです。せっかくマネをしても結果が出なければ習慣化せずに挫折してますますファッションと遠ざかってしまいかねず、それでは意味がありません。
 男性には、私の友人である老舗テーラーのオーナーの言葉を贈ります。

“ショップは男性の武器庫である”

 ショップに行けばシーンに応じて必要な武器(服や小物)は、なんでも揃うというわけです。ショップのスタッフに「このシーンにはどんなスタイルで臨めばいいか」を相談すれば必要な物は揃えてくれる。見た目の完璧さはもちろん、プロの助言に基づいているという精神的なサポートが得られたことで万全を期して闘い(ビジネスやデート)に赴けます。補足すると、このフレーズを言った彼はショップには女性と一緒には行かないそうです。あくまで「男性の武器庫」であり、準備をしている姿を見せることで手の内を知られてしまうという危険は冒せないのですね。
 また、男性の中には「おしゃれかどうかを気にするなんて、かっこ悪い」と思っている人もいるかもしれません。確かにじぶんのおしゃれを自慢したり、おしゃれかどうか・ハイブランドを身につけているかどうかを価値基準にするのはかっこ悪い。ここでいうおしゃれとは他人を不快にさせない、もしくは他人とのコミュニケーションをスムーズにするためのツールなのです。そういう意味でもショップスタッフという第三者の意見を参考にした服選びはじぶんを俯瞰から見ることにもなるため、勘違いをしたかっこ悪いおしゃれを避けることができます。ショップスタッフに対し、ざっくばらんに「おしゃれがよくわからないのでコーディネートしてほしい」と言うことは、他者との間の壁をひとつ破ることにもつながります。これら一連の行動によってファッションの枠組が広がるだけでなくじぶんの新しい一面を発見することができる。気がつけばコミュニケーションの枠組も広がっているはずです。

 英語が上達するコツは、ひたすら英語に慣れることだと言われます。家にいるときは英語のニュース放送をひたすら流して無意識に耳に入るようにしたり、膨大な英語の文献を読むなどを続けることで、ある日英語を理解できるようになっている‥‥という体験談をよく耳にします。ファッション・センスの磨き方も同じ。無意識におしゃれを意識した服選びができるようになるまで、しばらく頑張ってみてください。きっと世界の広がりを感じ、高揚感を得られるはずです。

2016年3月9日水曜日

ミニマルな生き方から見えてくるもの

●ミニマルな生き方から見えてくるもの

 「物が捨てられない」「衝動買いがやめられない」という問題を解決するには、どうしたらいいかについて少し考えてみましょう。物が捨てられない理由のひとつとして「もったいない」精神の功罪であるという解説はしました。ただ、もう少し掘り下げて考えてみると、問題はその人自身の生き方と関わっていることがあります。
 じぶんは物が捨てられない・片づけられないと考えている人は、以下の項目について考えてみてください。

  人から頼みごとをされると断れない。
  仕事を優先して、家族や友人とのプライベートな約束を延期してもらうことがある。
  じぶんは忙しすぎると思うが現状を変える方法がわからない。
  人から嫌われるのが怖くて言いなりになってしまう。

どれかに当てはまった人は、ミニマルライフを送る前にひとつの壁を乗り越える必要があるかもしれません。
 シリコンバレーのコンサルティング会社「THIS Inc.」のCEOであるグレッグ・マキューン氏の著書「エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする−」(かんき出版)には、次ような記述があります。

 人生も仕事も、クローゼットと同じだ。必要なものと不要なものを区別できなければ、どうでもいいことで埋めつくされてしまう。捨てるしくみをつくらないかぎり、やえることは際限なく積み上がっていくばかりだ。(出典:「エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする−」グレッグ・マキューン著(かんき出版))

 マキューン氏は「古い洋服を捨てるのは勇気がいることであり、同じように仕事や人との関わりにおいて場合に応じてノーと言うことは難しい。うまく捨てる(ノーと言える)技術を会得すれば人生はもっとすばらしいものになる」と主張しています。
 つまり、他からのプレッシャーに押し流されているとじぶん自身が見えなくなってしまう。そしてじぶんで選び取る力を失ってしまうというわけです。「なぜ、毎日こんなに忙しいのか?」と不満ばかりが募り、なんの達成感も得られていないのであれば、それは思考停止に陥っているかもしれない。逆を言えば、これら心の問題を改善することができればクローゼットの整理もスムーズに行えるようになるはずです。
 マキューン氏は著書のなかに記している方法論のいくつかを紹介すると、
 ・持っていないと考えてみる。
   服であれば「これを持っていない場合、いくら出して買おうと思うか?」。
   仕事であれば「もしまだこのプロジェクトに参加していなかったら、参加するためにどん
   な犠牲を払えるか?」と考えてみる。
 ・失敗を認める。
   失敗を認めて、進んで損切りをする。必要なときは他人の助けを借りる。失敗は成長への
   ひとつのステップにすぎないと考えれば恥ずかしさも克服できる。
 ・良くするためには何かをつけ加えるのではなく、何かを削ることだと考える。
 ・答えを出すまえに少し時間を置く。
などがあります。
 どれもカンタンに実践できそうです。つまり、私たちは知らず知らずのうちに本質的なことを見失っている。いろいろなしがらみや固定観念にがんじがらめになり、閉塞感を感じているのです。「これを持っていたら……」「これをやっていたら……」と、ありとあらゆる「たら・れば」を考えるあまり、「あれもこれも」と持ちきれないほどの仕事であったり、服を抱えてしまっている。選択する意思の力を失ってしまっているのではないでしょうか。

 何か感じるところがあった人は、クローゼットの整理をはじめてみてください。クローゼットがすっきりシンプルに片づいたとき、心のもやもやも少し晴れてくるかもしれません。